大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和41年(家)878号 審判 1966年4月19日

申立人兼相手方 伊原正男(仮名)

相手方兼申立人 田沢トミ(仮名)

未成年者 伊原美子(仮名)

主文

一、申立人からの未成年者伊原美子の引渡を求める申立を却下する。

二、未成年者伊原美子の親権者を申立人から相手方に変更する。

理由

一、申立人は未成年者伊原美子(以下単に本件未成年者という)の引渡を求め、相手方はこれに応じない(もと昭和三九年(家イ)第五〇九〇号調停事件)。のみならず相手方は本件未成年者の親権者を申立人から相手方に変更することを求め、申立人はこれに応じない(もと昭和四〇年(家イ)第六一号調停事件)。両事件とも調停不成立となり、審判に移向した(後者が家事審判法第九条第一項乙類七号にいわゆる「親権者の変更」として乙類審判事項にあたることは明白であるが、前者もまた家事審判法第九条第一項乙類四号にいわゆる「子の監護に関する処分」に含まれるものとして、乙類審判事項にあたると解するのが相当である)。

二、当裁判所の取り調べたところによれば、申立人と相手方とは昭和三七年三月頃同棲の上同三八年二月一一日婚姻届を了し、その間に本件未成年者(昭和三八年四月二八日生)を儲けたが、夫婦仲は両当事者の性格からくる異和や、申立人の相手方に対する暴力などからとかく円満を欠き、同三九年九月二日本件未成年者の親権者を申立人と定めて協議離婚したこと、しかし親権者が申立人と定められたについては、相手方の本意に基くものではなく、その軽率な思慮が介在したとはいえ、主として申立人の強制と詐術とによつたものであること、相手方が協議離婚届書に署名した昭和三九年九月一日に、当事者間の話合いの上では相手方にとどめおかれる筈であつた本件未成年者を、申立人が力づくで連れ去つたことから、このときを含めて爾後申立人と相手方とが交互に二回づつ本件未成年者を奪い合う事態を生じ、その都度本件未成年者はその居所を転々としたが、同四〇年二月五日以降は現在に至るまで相手方の許において監護養育されていること、相手方は昨今その住居と共に経済的自立の基礎を得、且つ本件未成年者の養育に従事し得る時間的精神的余裕を得て、本件末成年者との情緒的結合が順調に成長しつつあること、これに対して申立人は、相手方との婚姻中及び離婚後も職業を幾度となく変え、背伸びした姿勢で危険な線をわたり歩き、経済的な安定を甚だしく欠いていること、のみならず申立人は、その場しのぎの弁舌と方策とをあやつることに長じているけれども、人間的誠実さに乏しいうらみがあり、本件未成年者の引渡を強く求めながら、頼るに値する人的物的受入れ態勢を誠意を以つて整えている跡がみられないこと、等を知ることができる。

申立人は相手方の性格のみならずその実方の職業や両親ら親族の人格からの影響が本件未成年者によつて好ましくない旨を強調するけれども、いずれもこれを認めるに足りる的確な資料に乏しく、却つて申立人自身の如上の性格や職業歴等に照らせば、かえりみて他をいうとのそしりを免れない。

当裁判所は以上の諸点のほか本件にあらわれた申立人及び相手方双方の一切の事情を綜合して勘案した結果、本件未成年者を相手方の許にとどめおき、且つその養育監護の実と名とを一致させることを相当と認め、申立人からの本件未成年者引渡の申立を却下し、相手方からの本件未成年者の親権者変更の申立を認容することとし、参与員猪瀬一郎及び同仮屋かつの同趣旨の意見を聴いた上、主文のとおり審判することとした。

(家事審判官 高野耕一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例